2024-09-30
10数年待ち続けていた3次元集積化(3D IC)のビジネスチャンスが、AIブームの後、ついに到来しました。高性能・高密度パッケージング技術であるTSMC CoWoS は10数年前に国際的な半導体関係の展示会であるSEMICONでデビュー、パッケージング業界の憤激を買いました。しかし、現在では毎年60%成長し、日月光(ASE)を追い抜いてパッケージングのリーダーになろうとしています。では、なぜTSMC創業者の張忠謀氏はお気に入りの部下自らがパッケージングすることを応援するのでしょうか。
このコラムが掲載されるのは、丁度、「SEMICON 台湾 2024」の開催期間中です。
SEMICONは、世界の半導体製造業界で毎年恒例となったイベントです。国際的な大企業の技術責任者が特別に訪れ、台北市の南港会場周辺で行われる多数のフォーラムに参加し、シリコンフォトニクスなど業界動向について意見を交換します。その結果は、将来の業界の発展に影響を与えかねないものです。
現在、台湾の株式市場や業界で名声を得ているTSMCのCoWoS技術もSEMICONで初めて披露されました。それは13年前のことです。
当時、業界でホットな話題になっていたのは、パッケージング技術を用いてロジックやメモリなどのグレインを立体的に積み重ね、大幅な小型化を実現することができる「3D IC」でした。日月光や矽品精密(Siliconware Precision)などの大手メーカーも皆、次の金鉱と見なして積極的に参入します。
結局のところ、TSMCの部門の上級責任者がフォーラムで驚くべき発言をしたのです。「TSMCは独自に「3D IC」を開発し、顧客が選択できるよう高度なパッケージング技術の簡易版を発売提供する予定だ」、と。
巨人が自分たちの地盤を奪いにきたので、聴衆であった一群のパッケージング業界関係者はすぐに激怒しました。「そんなことを言ったら、今後パッケージング業界は仕事がなくなってしまうではないか」。ある大手メーカーの研究開発担当副社長がその場で非難するほどでした。
1か月後のTSMC業績報告会で、張忠謀氏はTSMCがCoWoSを世に送り出すことと正式に発表、その席上、生徒に英語を教える中学校の先生のように、CoWosのフルネームを一字一句はっきりと述べました。「Chips on Wafer on Substrate」。
当時はパッケージング業界の反発が大きかったことから、張忠謀氏は自ら発表、自身の声望で事を収め、部下を支持することを表明した、という風聞がありました。
張忠謀氏お気に入りのその部下とは、今年、中央研究院の院士に選出されたばかりのTSMC技術担当副社長、兪振華氏その人です。愈氏は、高効率コンピューティング用のCoWoSとモバイルデバイス用のInFOという2大技術の開発部隊を率いています。これらは、それぞれ輝達(Nvidia)のグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)とアップル(Apple)の自社製チップに採用され、TSMC がほぼゼロから新しいビジネスを発展させることを可能にしました。
その際、張忠謀氏は、TSMCが自ら先進的なパッケージングに挑戦しようとする理由を、「a clear ownership of long process flow」(長いプロセスにおける責任の所在を明確にすること)と説明しました。
この理由は数年たってからようやく分かりました。実際のところは、「問題が起きた場合、誰が支払うのか。いくら支払うのか」という重要な問題だったのです。
NvidiaのAIアクセラレータカードH100を例に挙げますと、その構造はハワイアンピザのワンピースとみなすことができます。最上層はハム (4ナノプロセスの GPUグレイン) です。すぐ周辺では数枚のパイナップルスライス (ハイバンドメモリ:HBM) と密着しています。その下にはチーズ (シリコンインターポーザー) の層があり、さらにその下は生地 (IC基板)です。
パッケージング企業が狙いを定めている「3D IC」というビジネスチャンスは、TSMCが「ハム」を作り終わり、日月光あるいは矽品精密の工場に輸送し、その後SK海力士(SK Hynix)から「パイナップル」を購入、続いてピザを完成させるというものです。
ただし、パッケージ化されたH100の販売価格は3万米ドルを超えます。なかでもTSMCが生産する「ハム」の原価は数千米ドル超の可能性もあります。
パッケージング企業はすぐに現実的な問題に直面しました。中間層の「チーズ」であるシリコンインターポーザーはウェハー工場レベルの加工技術を使用しており、難度がきわめて高いものです。一旦問題が発生すると並外れて高価な「ハム」も一緒に廃棄されてしまいます。
この時点では微妙です。TSMCの粗利益率は50%を上回っており、これは「ハム」は工場から出荷されるとすぐに価格が2倍になることを意味します。しかし、TSMCが最初から最後まで自社の工場で行えば、問題が発生したとき、そのコストは自社で負担するだけで済みます。
「TSMCは不良品を1つ作れば、1つ損をするだけです。私どもが1つ不良品を作ると、2つ損をします。もちろん、顧客が責任をとるわけです」と、矽品精密で自ら高度なパッケージング生産ラインを構築した馬元華・元研究開発担当副社長は述べました。数年前、メディアとのミーティングで、たとえパッケージング企業の見積額がTSMCの見積額よりはるかに低かったとしても、最後はTSMCが先進的なパッケージングの重要部分を独占するでしょう、と私に説明しました。
パッケージング業界は「3D IC」というビジネスチャンスが来るのを渇望していました。待つこと10数年、ついに生成AIの登場後そのチャンスが到来しました。 CoWoSの生産能力に限界があったため、H100は深刻な品不足となりました。そこで、TSMCは最終的に一部の注文を日月光と米国企業のエーカー(Aker Technology)に回しましたが、まだCoWoSの後半部分だけに限られていました。つまり、半製品をピザの生地(IC基板)の「oS」セグメントプロセスに載せることだったのです。
豊富な経験を持つ業界関係者は、これはTSMCが10数年にわたって蓄積してきた大量生産の経験であり、「生産が安定している場合にのみ、思い切って人に任せる」と指摘します。ただし、外部の委託先には必ずTSMCの設備、材料そして生産パラメーターを完全にコピーすることも求めます。
TSMCは最も困難な「CoW」部分も外部に委託する方向です。このため、日月光は大々的に生産ラインを拡充、今年の設備投資額は過去最高の30億米ドルに倍増しました。
TSMCの魏哲家総裁も7月に「ファウンドリ2.0」戦略を発表、ウェハーファウンドリの範囲を拡大し、正式にパッケージングとテスティングをその範疇に含めました。魏総裁は、この新しい定義でようやくTSMCの新たな成長機会を具体的に示すことができる、と述べました。
この新たなチャンスはどれくらい大きなものなのでしょうか。 CoWoS に限れば、TSMCは2022 年から 2026 年までの年平均成長率は60% になると予想しています。先端パッケージング事業は既にTSMCの営業収入の1割を占めており、高成長のもと、TSMCは数年後に日月光を抜いて世界最大のパッケージング企業になる見込みがあります。
今年のテクノロジーフォーラムでTSMCは、CoWoSの変種技術である「システム・オン・ウェハー(SoW)」、サイズが12インチウェハーくらいの巨大チップで、次世代データセンターで使用される予定のもの、を披露しました。
これは、近年、TSMCが行った新技術お披露目における一大壮観です。以前はチップのサイズを小さくすることが強調されていましたが、現在ではNvidiaなどのAI顧客に促され、パッケージング技術を用いてチップを次々と大きくすることに重点が移っています。
魏総裁は最近、TSMCはサイズの制限をさらに受けないパネルレベルのパッケージング技術への布石を打っており、早ければ3年後に発売する予定であることを認めました。その時、Nvidia CEOの黄仁勲(Jensen Huang)氏が製品発表会でデスクトップ大の AI チップを持ち出して来ても、驚く必要はありません。
資料來源: 『天下雜誌』2024-09-03【陳良榕コラム】