2024-07-31
AI第一波の頂点に立った後、台湾企業は何に頼れば勝ち続けることができるのでしょうか。黄仁勲(Jensen Huang)NVIDIA最高経営責任者も話している AIファウンドリー(AI受託生産:AI OEM)というコンセプトが、台湾の AI サプライチェーンに揺るぎない競争優位をもたらす、と期待されています。国立台湾大学電気工学科の陳良基名誉教授は、ビジネス誌『天下雑誌』の独占インタビューで、ソフトウェアとハードウェア統合の優位性を発揮すれば、台湾はまさに世界から信頼されるAI OEMの島になります、と指摘しました。
AI は産業革命の新たな波です。Microsoft、Meta、Googleといった巨大企業が競争していますし、そのうえいわゆるIDMの競争があります。つまり、半導体産業においてはIntel(インテル)に代表される「垂直統合型デバイスメーカー」(Integrated Device Manufacturer)が存在する一方で、TSMC(台湾積体電路製造)が主導するオープンにして分業的なウェーハー受託生産モデルがあります。
台湾は適切な分業により、半導体をかくのごとく強大なものにしました。ハードウェアの統合能力はますます強くなり、多くの機能がチップに統合されています。AI時代が到来、誰もが皆AIを利用する必要がある時代、誰がAIのプロバイダーになるのでしょうか。現在 AI を提供し、あたかも無敵であるように見える企業は、40年前のインテルのように初期の半導体チッププロバイダーに似ています。
真にAIを機能をさせることができるのはデータ、AIをトレーニングするために使用されるデータです。データすべてを Microsoft、Google、Amazon Web Service などの大企業に差し出す必要がある場合、これらの企業自体が IDM (垂直統合サプライヤー) になります。というのは、彼らが提供するAIモデルしか使用できないからです。
実際のところ、私は2年前にAIファウンドリー、このコンセプトについて話をしました。ファウンドリーの意味は明確です。ユーザーインターフェイスがどこにあろうとも、誰もが私のインターフェイスを信頼することができます。AI時代ですから、皆が最も心配しているのは計算能力ではなく、実際に使用するデータです。適切に計算されたもの、すでにトレーニングされたモデルを使用することだけが必要なのであり、私に言わせれば、ある種の計算能力は必要ありません。
将来このようになった場合、誰がAI モデルの信頼しうるOEMを提供できるのでしょうか。
それが可能な企業が AI産業全体で最も重要なサプライヤーになるでしょう。
私たちがよく知っている半導体産業に例えますと、半導体チップとサーバーが中核で、2 番目の円はクラウドサービスとオペレーションのプロバイダー、3 番目の円はOpenAIのようなAIモデルのサービスプロバイダーです。
台湾のチャンスはAIモデルサービス、この部分にあるでしょう。台湾は全世界に対してオープンな環境を提供、このモデルを使用したい人は、データをIDMに差し出す必要はなく、トレーニングや教育は受託者を探して任せることができます。チップのOEM生産と同様、受託者は信頼される必要がありますので、データが漏洩することはないでしょう。
台湾の産業はここ数年名声を築き、OEMに関しては既に完璧な水準に到達、世界中から信頼されており、物を台湾に提供しても大丈夫です。ですから、将来顧客が台湾のモデルサービスにデータを差し出しても問題はありません。台湾のモデルサービスは、自らデータを把握することができますし、随時教育することも可能で、現在のIDMを変更する必要は必ずしもありません。ただ、モデルサービスが GPT4.0を提供している場合は、GPT4.0 のみ使用可能です。また、バージョンが変更された場合は、それに合わせて変更する必要があります。
もし、ある企業がAIを導入し、データを OpenAI に差し出し、トレーニングしたい場合、すべてがOpenAIの手に委ねられることになりますが、OpenAI のオペレーションモデルは信頼できるのでしょうか。
TSMCが信頼されているのは、顧客と競合しないからですが、OpenAIは顧客と競合するのでしょうか。現在のところまだわかりません。OpenAIはどのようにしてデータをトレーニングしますか。正直に言うと、この問題についてもわかりません。これがチップファウンドリーとは大きく異なる点です。
チップファウンドリーですが、私は現在 TSMC に生産委託を行っているとしましょう。私は、TSMCが私と競合しないことを知っているだけではなく、チップの設計方法や変更の仕方についても相談することができます。しかも、私とTSMCが談判した内容は基本的に機密事項であり、他人が知ることはありません。しかし、現在OpenAIのモデルを使用すると、データは自動的に新しいトレーニングを支援しますので、すべてのデータがOpenAIに取り込まれます。そのため、現在、多くの大企業が、OpenAIのサービスは使用不可、との命令を出しています。
したがって、企業にとって現在問題なのは、自社でコントロール可能にして使えるオープン型AIシステムがあるかどうか、です。これは台湾が手にすることができる優位性とチャンスです。私たちはもともとハードウェアのスケールを備えていますし、ファウンドリーもすべての人から信頼されており、この信頼を活用することができますので、企業がデータを台湾側に渡していただければ、その企業が使用するモデルを協力して作ることができます。
将来あらゆる産業でAIの利用が必要になると仮定しますと、AIを提供する側はユーザーにデータをより綿密に把握していただくともに、人々が安心できるようにする必要が間違いなくあります。たとえば、OpenAI はクローズドシステムですが、ユーザーが必要とするのは比較的小規模なモデルだけかもしれません。美術スタッフを雇いたい場合を例にしますと、そのスタッフに詩を書く能力は必ずしも必要ないのです。将来の機能と知識のおかげで、私たちがますます明確に理解できるようになれば、実際に必要なのは、多くのオペレーションを節減できる小型モデルだけで十分です。ある程度ですが、Apple は現在、この方向に向かっています。台湾はチップとハードウェア全体の核心部分を掌握していることから、顧客が必要とするモデルがわかれば、それを簡素化することができますし、場合によってはシンプルなハードウェア・アーキテクチャーを提供することも可能です。
したがって、このAIモデルサービスはソフトウェアとハードウェアを統合したサービスであり、ソフトウェアとハードウェアの統合に関しては、世界中で台湾ほど優れているところはどこもありません。
それまでに、各界で比較的独立したAIモデルが必要になるでしょう。現在の IDM は、将来、インテルがファウンドリーモデルを歩む場合と同じように、必ずや多くの課題に直面するでしょう。なぜなら、元来が暴力的なモデルでトレーニングされているからです。今、比較的小さなモデルに転換する必要がありますが、実際にはそれほど簡単にできることではありません。
データを管理する人が利益を得ることができるため、重要なことは誰がデータを掌握するか、です。
例を挙げますと、TSMCの生産効率があれほど優れている理由は、スマート製造を早期に導入したことと大きな関係があります。スマート製造は既に現在の流行になっています。台湾には既に30以上の無人工場があるはずで、データ収集後はそれらのデータを直接利用して工場全体を制御しています。製造全体のノウハウはデータ上にあります。これがデータを把握することの重要性であり、競争力の所在です。
私たちが現在Llama3と協力しているように、台湾はオープンソースモデルを世界中から探しトレーニングすることができます。これは正しいことです。したがって、AI モデルについて言えば、台湾は、オープン型モデルを提供する意欲のある世界中の人々と協力することができます。この市場を取り囲み、台湾の協力を得る、こうすることで原資を手に入れこれらIDMと市場獲得競争をするのです。
現在、これらのIDMは社員数も多くビジネスも大規模です。もしこれらの企業が多額の資金を投じてユーザーの問題点に対応したいと願うのなら、引き続き市場をリードすることができるかもしれません。もし、台湾が国力を傾けるのであれば、当時の半導体もまたそれこそ国力に支えられていたように、台湾が産業政策で全世界のAIファウンドリー・サプライチェーンにおける自らの役割を仔細に計画できるのであれば、台湾にチャンスがあるでしょう。
全文は『天下雑誌』をご覧ください。
資料來源: 『天下雜誌』Web only 2024-06-04