2023-11-22
世界規模で2050年ネットゼロ目標を積極的に推進するなか、さらに進んでエネルギー、生活、産業、そして社会のグリーン・トランスフォーメーションを進めるため、世界各国や産業のリーディングカンパニーは次々とネットゼロへの道筋と戦略を発表しています。国際海事機関(International Marine Organization:IMO)も今年(2023年)から新たな排出規定を実施、2023年から2026年の間、船舶に毎年2%の炭素排出減を求めています。と同時に2030年前に現有および新造船舶の炭素排出量を2008年比で40%減少させるべきとし、2050年までに同70%減を目標としています。この新規定に直面した海運会社は「新型船舶の研究開発」、「省エネルギー」、「洋上充電装置」という方法で対応することが可能で、このことが船舶市場の新しい動力システム開発に向けた足取りを加速しています。関係する措置は以下の通りです。
洋上風力発電の世界トップ企業オーステッド(Ørsted)社は2020年からサプライチェーンでの炭素削減計画を進めており、2025年までに再生エネルギーから発電した電力を100%使用して生産した製品やサービスを提供することを目標にしています。同社は2022年にデンマークの洋上風力発電サービス会社ESVAGTと協力協定に署名、グリーンエネルギー(風力エネルギーと再生メタノール)を使用した世界最初の洋上風力メンテナンス支援船(Service Operation Vessel: SOV)の建造に投資しています。この支援船は2024年末の運用開始を予定しており、毎年4,500トンの二酸化炭素排出を削減することができます。
風力発電機システム会社のベスタス(Vestas)は2030年にカーボンニュートラルという目標を達成するために、長年にわたって同社のサプライヤーを務めているWindcat Workboats社と共同で、世界初となる水素動力作業員輸送船(Crew Transfer Vessel: CTV)を開発するテスト計画を始動しました。この作業員輸送船は二酸化炭素排出量を約158トン減少させることができ、従来型の作業員輸送船と比較すると37%の二酸化炭素排出削減となると見込まれています。将来、グリーン水素の商業化に伴い、逐次グレー水素燃料に代替し、炭素排出量を減少させるでしょう。
韓国の造船メーカー三星重工業(Samsung Heavy Industries)は「低炭素排出洋上風力発電設備設置船(Eco-Wind Turbine Installation Vessel: Eco-WTIV)」を開発、この船舶は液化天然ガス(Liquefied Natural Gas: LNG)エンジンを採用、燃料電池と蓄エネルギーシステムを搭載することで一般的なディーゼルエンジンに代えています。削減可能な二酸化炭素排出量は50%に達し、しかも船舶の運用コストを下げることもできます。この船は、米国船級協会(American Bureau of Shipping: ABS)、ノルウェー船級協会(Det Norske Veritas: DNV)および英国ロイズ船級協会(Lloyd's Register of Shipping: LR)という世界三大船級協会の設計認証を獲得しています。
オーステッド社は英国ホーンシー2号(Hornsea Two)洋上風力発電所に重油・電気ハイブリッド作業員輸送船2隻を提供、将来、発電所の操業段階で使用することになっています。この2隻の作業員輸送船はダンフォス・エディトロン(Danfoss Editron)のハイブリッド動力システムを備え、全電気式あるいはハイブリッドで航行、二酸化炭素排出量を約140トン減少させることができます。将来的には異なるタイプのハイブリッド作業員輸送船や他の大型ハイブリッド船舶の発展が期待されます。
マルコ・ポーロ・マリーン(Marco Polo Marine)社とシーテック・ソリューションズ・インターナショナル(SeaTech Solutions International)社は洋上風力発電産業向けに洋上風力メンテナンス支援船(SOV)とコミッショニング・サービス・オペレーション・ベッセル(Commissioning Service Operation Vessel: CSOV、性能確認作業・保守作業を担当する技術者向けの船舶)各1隻合計2隻の重油・電気ハイブリッド船を共同開発します。この2隻はハイブリッド電池の蓄エネシステムを備えているため、他の重油・電気ハイブリッド船に比べ、使用燃料および炭素排出量を最大で15%から20%減少させます。
デンマークの海洋エンジニアリング会社であるカデラー(Cadeler A/S)社は重油・電気ハイブリッドシステムをF級自己昇降式作業台船に利用しています。この船舶は5,600平方メートルの甲板の上に17,600トンを超える積載能力を擁しており、風力発電機大型化の設置というニーズを満たすことができます。さらに、その強大な運搬積載能力はハイブリッド動力システムに合わせており、炭素排出量を20%削減可能と見込まれています。
英国政府は海運業の炭素削減を奨励するため、クリーン海事実演コンペ(Clean Maritime Demonstration Competition: CMDC)を推進しています。このコンペではアルテミス・テクノロジーズ(Artemis Technologies)、オフショア再生エネルギー研究所(Offshore Renewable Energy Catapult: ORE Catapult)、ロイズ船級協会が共同で電気推進システムを搭載した作業員輸送船(eFoiler CTV)を出品、純電気式CTV技術が船舶産業の将来ニーズに対して持つ経済性について検証を行いました。
世界最初の洋上電動船充電ステーションは2022年に英国のリン・アンド・インナー・ダウジング(Lynn and Inner Dowsing)洋上風力発電所に設置されました。電動オフショア船充電システム開発計画はMJR Power & Automation社が発起し、ORE Catapult、XceCo、Artemis TechnologiesそしてTidal Transitが参加しています。この計画の要は風力発電機に設置する充電装置を設計、建造、テストし、作業員輸送船、洋上風力メンテナンス支援船、プラットフォーム補給船(Platform Supply Vessel: PSV)への電力供給を可能にすることです。
マースク・サプライ・サービス(Maersk Supply Service)社は船舶洋上充電サービス会社Stillstromを設立、昨年第3四半期にオーステッド社と共同で世界初のフルサイズ洋上船舶充電ステーションを世に問いました。ブイを船舶の安全係留施設かつ充電ステーションとして利用、現在は洋上風力メンテナンス支援船の大小電池あるいはハイブリッド動力船に充電することが可能で、将来はさらに大きな船舶にも応用できるように拡充を続けています。
英国企業のOasis Marine Power、Turbo Power Systems、Verlume 3社も作業員輸送船向けにスマート蓄エネシステム(Halo)と充電インフラ(Oasis Power Buoy)を既に開発、風力発電機を通じて係留施設と充電ステーションに電気を供給、使用できるようにしています。
世界の洋上風力発電関連船舶は炭素排出削減という概念をすでに逐次導入しています。グリーン燃料、重油・電気ハイブリッドあるいは全電気システムのように、よく見られるのは動力供給面での炭素排出削減です。風力発電所のデベロッパー、風力発電機システム会社、海洋エンジニアリング企業、造船メーカー、政府部門を問わず、人材と資金を投入して関連する開発と戦略を進行させており、これが周辺インフラの発展をもたらしています。
さらに国際海事機関が船舶の炭素排出削減に関して新規定を定めたことから、洋上風力発電関連船舶の炭素排出削減という趨勢はさらに加速されています。既存のマーケットにある低炭素船舶を観察すると、炭素削減動力システム設計を除けば、大多数は省エネ発電機への交換、エンジンの最適化、動力モジュールの改装という方法を通じ、コスト面での効果を比較的伴った手段で炭素削減の効果を挙げています。
ネットゼロという世界の趨勢下、台湾の造船メーカーには、船舶の動力改装から始めて各レベルの設計の統合へと進み、炭素排出削減船舶の新規建造を目標に低炭素製品の開発を加速するようアドバイスしたいと思います。しかし、船舶の改造過程において省エネ型の発電機やエンジン、電池モジュールなど炭素削減部品を購入ないしは製造するときは、備え付ける際にマッチするかどうか、に注意しなければなりません。また、ボディー材料に低炭素材質を選ぶことや製造工程での炭素削減も考慮に入れる必要があります。こうすれば、同時に船舶全体の炭素排出量を低下させ、台湾の造船会社が将来受注を獲得し続ける際に有利になるでしょう。
資料來源: 財団法人金属工業研究発展センター 金属情報網